消滅時効の援用ができないケース

消滅時効の援用をしたいというご相談があった場合に、時効援用の要件を満たさないため残念ながら援用ができないケースが稀にあります。

ここでは、消滅時効を援用するための要件と、時効援用できないケースの具体例および注意点についてご説明します。

消滅時効を援用するための要件

1 時効期間が経過していること

時効の援用をするには、まず何より一定期間が経過していることが必要です。

法律では、債権者(サラ金等)が、権利を行使することができることを知った時から5年、または権利を行使することができる時から10年間権利行使をしないときに消滅時効が成立する、とされています(民法第166条第1項)。

サラ金などお金を貸している債権者であれば、たいていの場合は権利行使をすることができることを知っているでしょうから、基本的には(最終返済日から)5年の経過が消滅時効の条件となります。

2 時効の完成猶予事由、時効更新事由がないこと

消滅時効が成立し援用をするためには、上記5年の時効期間の間に、時効の完成猶予事由、時効更新事由発生していないことが必要です。

時効の完成猶予とは、その事実があったときに一旦時効の進行がストップすることを言います。

時効更新とは、その事実があったときに時効期間の計算が振出しに戻ることを言います。

ちょっと分かりにくいかもしれないので例をあげてみます。

時効の完成猶予事由の1つに、サラ金から裁判上の請求(借金を返済せよという裁判を起こされること)があります。裁判上の請求されると、裁判を起こされた日に時効期間のカウントがストップします(時効の完成猶予事由)。

たとえば、最終返済日から4年経過したときに裁判を起こされたケースについて考えてみましょう。その裁判手続きが長引いて1年かかった場合、最終返済日から5年経過しているわけですが(4年+1年)、裁判が起こされた時点で時効期間がストップしているので、この場合は消滅時効は完成しないというわけです。

そして、裁判上の確定判決は時効更新事由にあたるので、上記の裁判で判決が確定すると、時効は振出しに戻ります。上のケースで、サラ金の請求を認める判決がされると、4年経過していたのは無かったことになり、時効期間は新たに1日目からスタートです。しかも確定判決が出てしまうと、時効期間は5年ではなく10年になってしまいます。

このような時効の完成猶予事由、更新事由には、主に次のようなものがあります。

時効の完成猶予事由 

  • 裁判上の請求
  • 支払督促
  • 訴え提起前の裁判上の和解または民事調停等による調停
  • 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
  • 強制執行、担保権の実行、競売等
  • 仮差押え、仮処分 
  • 催告(内容証明郵便など)

時効の更新事由

  • 裁判における確定判決
  • 支払督促の確定
  • その他、確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したこと
  • 強制執行等の終了
  • 債務の承認

消滅時効が援用できないケース

消滅時効が援用できない事例のうち、特に注意すべき事例をいくつかご紹介します。

1 債務の承認をしてしまった

債務の承認は、実務上、もっとも注意すべき時効更新事由といえます。というのは、債務の承認は唯一、お金を借りた側の行為(対応上のミス)によって消滅時効の援用ができなくなってしまうものだからです。

債務の承認とは、簡単に言えば借金を認めることを言います。借金残額を認めた上で分割払いの示談をすることなどが典型例です。

ただ、こうした直接的な承認以外にも、知らず知らずのうちに債務の承認と評価されてしまう事例があります。もっとも多いのは、借金の一部を返済してしまうケースです。

まず、時効期間の5年が経過する前に借金の一部を弁済すると、当然ながら時効は完成しません。時効成立には最終返済日から5年の経過が必要ですが、一部弁済するとその日が最終返済日となり、その日から時効期間が改めてスタートするためです。

一方、時効完成後に、時効が完成したことを知らないで借金(負債)の一部を返済してしまった場合はどうかというと、この場合も信義則上、時効の援用権は喪失されてしまいます。

この点について、「債務者が、自己の負担する債務について時効が完成したのちに、債権者に対し債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかつたときでも、爾後その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されないものと解するのが相当である」と判示した最高裁判例があります(昭和41年4月20日最高裁判決)。

「時効完成の事実を知らなかつたときでも」というのが厳しいところです。時効完成後に返済をする方のほとんどは、消滅時効という制度のことすら知らないケースがほどんどだからです、

サラ金からの借金の例で言うと、債務者が消滅時効のことを知らないのをいいことに、5年以上経過した昔の借金について請求をしてくる貸金業者はたくさんいます。当然ながら業者側は消滅時効のことを知っていて、この最高裁判決を使って消滅時効の援用をさせないように罠を仕掛けてくるのです。具体的には、「とりあえず1,000円だけでも払ってくれれば、裁判は起こさないよ」などと言葉巧みに一部弁済を促します。たとえ消滅時効のことを知らなくても、1,000円返済されれば時効の援用ができなくなり、借金が消滅しないからです。

ここまでお読みいただければもうお気づきかと思いますが、うっかり知らず知らずのうちに債務承認をしないようにするためには、サラ金等の債権者とは直接電話しないことがポイントです。法律を知らないがゆえに消滅時効の援用ができない、などという事態を避けるためには、専門家である司法書士等に相談していただきたいと思います。

ただ、あまりにサラ金業者の対応がひどい場合には、時効期間経過後に弁済があったにもかかわらず、時効援用権喪失の主張が信義則上認められないと判断する下級審レベルの判例も出てきています。万一、時効のことを知らずにサラ金に少額の弁済をしてしまったようなケースでも争える余地がない訳ではないので、まずはご相談いただきたいと思います。

2 裁判を起こされ、判決を取られていた

最終返済日から5年経過していたと思っていても、サラ金等から裁判を起こされ判決が取られていると消滅時効は完成せず、時効の援用ができません。

ありがちな事例は、調査の結果5年以上経過していることを確認したので消滅時効援用の通知書をサラ金等に郵送したところ、実はすでにサラ金に判決をとられていたケースです。自分の知らないうちに判決が出るわけない、と思われがちなのですが、実際には裁判所からの郵便物を無視していると、いわゆる欠席裁判によりサラ金勝訴の判決が出てしまいます。

なお、こうした裁判は、最終返済日から5年経過した後にもされることがあるので要注意です。5年経過するだけでは消滅時効は自動的に成立せず、援用をしておかないと裁判でひっくり返されるリスクもあります。時効援用のご相談はお早めにされることをお勧めします。

3 支払督促の申立てをされ、支払督促が確定していた

支払督促とは、サラ金等債権者の申立てに基づいて、簡易裁判所の書記官が、債務者に対して金銭等の支払を命じる制度です。裁判所の手続きなので、支払督促が確定すると勝訴判決と同一の効力があり、時効更新事由にあたります。

消滅時効が完成したと思って時効援用通知を発送したら、実は知らない間に支払督促が確定していて、消滅時効が援用できないというケースがあるのです。

この支払督促の特徴は、債務者に支払督促が届いて2週間放置すると強制執行されてしまうので、スピーディに対応する必要があるという点です。もし裁判所から支払督促が届いたら、至急ご相談いただきたいと思います。裁判よりも簡易的な手続きなのですが、裁判を起こされた場合と同様、裁判所からの郵便物を無視していると、あっという間に給与や預金などを差押えされかねません。

まとめ

消滅時効の援用ができない事例をご紹介してきました。

知らず知らずのうちに消滅時効の援用権を失わないためのポイントは、次の4つにまとめられると言えます。

  • サラ金等の債権者と直接交渉しないこと
  • 昔の借金について支払いを求められても、1円も支払わないこと
  • 裁判所からの郵便物を無視しないこと
  • 消滅時効の援用ができないか、まずは司法書士に相談すること

消滅時効の援用のチャンスを逃すのは、お金を借りていた側のうっかりミス、あるいは法律を知らなかったことによるものがほとんどです。法律は知っている人の味方です。こうした昔の借金の時効援用ができるかもしれない、と心当たりのある方は、お早めに当事務所までご相談ください。

消滅時効が成立していてもしていなくても、必ずお力になります。

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